たまには朝4時の小旅行を

 
 早朝からの撮影もよくあるので、年に何回かは始発電車というものに乗る。
 JRだと4時台から始発はあって、まだ空が明けきっていない道を向かうのだけれど、そんな早い時間なんて誰もいないだろうなんて思うのは大間違いで、吊り革に掴まるほどは流石にいないが、始発電車というのは案外多くの人が乗っている。そして僕が始発電車が好きなのは、通勤通学のラッシュなどと違って、実にたくさんのタイプの人たちが乗っていて、個性豊かな、人間のモザイク模様みたいに見えることだ。
 いかにも通勤という背広姿の人もいれば、釣り竿にクーラーボックスを持ったベスト姿の人もいる。ストックを結んだザックを携えて今日登る山に期待感を膨らませている人の横で、ついさっきまで飲んでいた真っ赤な顔で眠りこけている人がいる。現場に向かう作業服もいれば、どこから見てもホストの兄ちゃんもいるし、スポーツバックにジャージ姿の青年もいる。仕事に行く人、帰る人、遊びに行く人、帰る人、始発列車には実に様々な、違う目的を持った人が一緒の車両に乗っている。疲れや気怠さだけじゃなく、希望や期待も一緒に乗っていて、そのミックスが実に楽しい。
 当たり前のことだけど、夜通し仕事している人もいるんだなあと思う。こんな早朝から仕事に向かう人も。昼を頑張る人もいれば、夜を守る人もいる。お互い、言葉を交わすわけではないけれど、この始発電車の箱の中で、一瞬、その人生が交差する。
 みんな、生きてるなあ、と思う。そして、なぜだかいつも、なにか言葉では言えない感慨を感じて、元気になる。
 当たり前のことだけれど、いろんな生き方がある。みんなが違う生き方をしている。どんな生き方をしてもいいんだし、その全員を合わせて世界が出来上がっているんだなと思う。
 もし始発に乗ったことがない人がいたら、ぜひ一度乗ってみることをオススメする。日常が変わらないなんて感じてしまっている人がもしいたらその人にも、思い切って始発電車で出かけてみることをオススメする。何年も引きこもったために外に出るのも躊躇している人がもしいたら、手始めにまず、この始発電車に乗ってみればいいと思う。決して誰からも変な目で見られることはないし、いろいろな人々を見て気が楽になるだろうし、元気になるだろうと思う。
 始発電車に乗るのは、それだけでちょっとした小旅行だと思う。
 

(2018年8月)